遠浅の海、羊の群れ。

羊の群れは、きまって遠くの向こう岸で、べえやべえやとわなないている。

納得がしたいというのも傲慢な話だ。

自分の身の回りの出来事に納得がしたいというのも傲慢な話だ。
「それでは納得がいかない」と叫ばれたところで、あなたに納得してもらっ必要なんてさらさらない場面だってあるわけだ。

今夜も深夜に恋人は深夜に帰宅した。
私は風邪を引いて寝込んでいたわけだけれども、昼間に通院して、その帰りにいいパン屋を見つけたんだ、なんて、そんな話をしていたわけさ。
恋人はスマホポケモン剣盾のサイトを調べるばかりで、私の話は上の空だったわけだよ。

たまに、「はっ(笑)」なんて言ったりしたがらね。
私は途中で話を切り上げて寝室に潜った。

長時間労働に疲れていて、やっと見つけた隙間時間なんだろう、好きなことを、ものを、やれるだけやりたいんだろう、そのやっとできた隙間時間に、私の入り込む隙間なんてもはやないと、そういうことなんだよ。

がっつりもって納得した。
把握した。

だからこそ、奴のなけなしの趣味時間を邪魔するつもりも毛頭ない。やっとできた接点の時間にもっと恋人として関わり合いたいだとかいう、甘い夢も捨てよう。

おそらくだが、私達は、同居さえしていなかったらここまで長くパートナーシップを続けてはこられなかったであろう。

怠惰でいい加減な彼と、ミーハーで直情的な私が、よくぞまあ空間を同じくしてここまでやってこれたと、全世界が私ならスタンディングオベーション鳴り止まずですよ。

いくら疲れているからって恋人である私をかまってくれないなんて納得できない! 説明して!

そんなことは言えんのですよ。
彼が、帰ってきてて、Switchでポケモン剣やってる、くわえタバコで。
そこに、風呂も入って歯も磨いて髪も乾かした私がいる。肩から毛布かぶったまんまキッチンの壁にもたれかかってつまらないことを言っているんですよ。
これは、そういうシーンなんだよ。

だから、彼が「どうしたの?」と聞くのもセットで、私が「話を聞いてくれないのでへそを曲げました、寝ます」とぶすくれるとこもでもセットなんだね。

彼は布団に潜り込むなり、Switchを構えたまま寝息を立て始めた。
熱出した有給だ医者行くとか私がうだうだやってる間も、目の回るようなスピードで仕事をしていたんだろうな。
昼にちょっと心配してくれるようなメッセが入ってただけで、もう、そんなくらいでいいんだよ。
彼は彼で彼の生活を一生懸命生きてるんだなら。

でも、それでも、一日の終わりにさ、やっと会えた深夜にさ、もう少しのコミュニケーションがあってもいいんじゃないかなあと、私は不満に思ってしまったんだ。

大事を取って休んだものの、幸い、インフルエンザには感染していてなかった。

明日は会社に行く。
最近では、自分が会社で何をしたらいいのかすらわからない、迷子状態なんだ。
上長も、放っておけばそこそこの成果を出すだろう、くらいにしか思ってくれてないんだろうな。
いつも私には同じことしか言わないし。

もっとシャキっとしてみよう。
彼氏、頑張ってるし、私ももっと力を入れて仕事をしてみよう。
余力がありすぎて困る。

まずは、30分早く起きるとか、してみようかな。

そうしたらもっと、「もう今日は何にも気力を使いたくない」という彼の気持ちにも、納得ができるようになるかましれない。
そうだ、私は傲慢なのだ。