遠浅の海、羊の群れ。

羊の群れは、きまって遠くの向こう岸で、べえやべえやとわなないている。

不眠症が悪化しまして

不眠症を患っている。

十年ほど前に入院をした際、眠れなくなり、それからずっと睡眠薬を処方してもらっていたのだが、とうとう同じ薬が効かなくなったらしい。

だから「眠れない」と感じてから、倍量を飲んだところ、いったんは眠れるようになった。

それから数か月して、倍量でも効かなくなった。

「顔色が悪いですよ」

同僚にそう言われてたときは、「嫌なことを言う人だな」くらいにしか思っていなかったのだが、思い返してみれば、その頃の体調は絶不調だった。

常に手が震え、冷や汗をかき、頭痛がひどく、動悸がして、体の背面すべての筋肉が凝り固まって痛かった。

夜は眠れない。

休日だとしても、会社を休んだとしても、眠れない。

徹夜明けの昼でも眠れない。

いつも何か叫びだしたいような気分で、猫背のままスマートフォンをいじっていたように思う。

ときに、同居人にきつく当たってしまうこともあった。

思い返してみれば、あれも、眠れないことがわたしの精神を蝕んでいたことが遠因だったのかもしれない。

 

寝床から起き上がれず欠勤することも増えた。

そんな状況に耐えかねて、わたしは心療内科を訪ねた。

 

わたしが住む町の、駅前の雑居ビルの四階にある、こじんまりとした心療内科だ。

待合室には、おそらく何かしらの問題を抱えた患者が、座って、静かに自分の順番を待っていた。