遠浅の海、羊の群れ。

羊の群れは、きまって遠くの向こう岸で、べえやべえやとわなないている。

キーボードを新調した

私は文章をタイプするのが好きだ。

そのせいか、キーボードを用いた「打鍵感」には並々ならぬこだわりがある。

「弘法筆を選ばず」という言葉もあるが「鬼に金棒」という言葉もある。

私が鬼か凡なる人かはわからないが、打鍵感の良いキーボードが私に装備されたとするなら、普段以上に「書く気になる」のは間違いないだろう。

 

キーボードの打鍵感が好きで、今のノートPCもわざわざThinkpadの古い型を買った。でも、結局外付けしてしまうなら、打鍵感も何もなかったのかなあとも思う。

 

先日、新宿西口のヨドバシカメラで私は打鍵感を求めたのである。

会社で仕事用に通販で買ったキーボードはおよそ5分で購入を決めたのに、なぜだろう、目の前にキーボードがたくさん並んでいると、意味もなく触れて、打鍵感を確かめてしまう。

キーピッチの深さ、打鍵感の硬さ、柔らかさ、静穏性、なんて愛らしいキーボードの数々。

サイズも薄さも価格も様々、しかして、最終的な判断は打鍵感なのだろう。

その売り場には私以外にも何人かの客がいたが、みな一様に熱心にキーボードをカチャカチャやっては首をかしげたりなんだりしていた(はっきり言って私を含めみんな気持ち悪かった)。

値段も安いものなら1500円から、高いものだと2万円なんていうものもある。

どうやらゲーミングキーボードという、ゲーム専用のキーボードはめちゃんこ高価なようだ。打鍵感も私が普段使っているものとは全然違う。カタカタ……というよりは、パチパチ……といった具合の音がして、キーというよりは一つ一つが独立したボタンのようにも見える。誤解を恐れずに言うならば、なんとなくガンダムっぽい。バックライトなんか点いちゃったらもうほんとガンダムっぽい。

 

でも、ゲームやるわけでもないし、キーボードに二万円はなあとぼやきつつ、もとのお安い売り場に戻った。

 

そうして手にした2500円のロジクールのフルサイズキーボードで今この文章を打っている。

やっぱり、いい! フルサイズのキーボード、そしてこのキーピッチ、打鍵感、音、しっくり来る!

ノートPCのキーボードで作業しているときに比べて、ブラインドタッチの正確さが格段に高い。カタカナ変換のF7の位置、半角カタカナ変換のF8の位置、ページを移動するAlt&Tabの位置、テンキー、カーソル、そうそうこれだよ求めてい物は!

 

2500円でこれほど素晴らしいものが手に入るのであれば、もっと早く行動していればよかったと、この文章を書きながら心底感動している。

 

とてつもなく手に馴染む、なぜこんなに手に馴染むのだ。

 

その秘密は翌日の出社時にわかった。

私が自宅(在宅勤務)用に買ったフルサイズキーボードは、二年前に会社用に購入したもののマイナーチェンジ品だったからである。

キーの位置も感覚も同じ。そりゃ手に馴染むだろうさ、毎日使ってるんだもの。

違うのは全体のカラーがブラックかグレーか程度だ。

 

ヨドバシカメラの売り場にあれだけたくさん置かれたキーボードの中から、まったく意識せずに、今日まさに使っていた品物と同じ打鍵感を探し当てるなんて、やっぱりちょっと気持ち悪いなって自分で思った。

 

会社のキーボードと全く同じということは、在宅勤務時のメールもエクセルもパワポも同じクオリティーで作業ができるということだな。

 

なんだかそれもそれで、この身に沁みついてしまった業のようなものを嫌が応にも感じてしまうしだいである。