遠浅の海、羊の群れ。

羊の群れは、きまって遠くの向こう岸で、べえやべえやとわなないている。

在宅勤務で苛立つこともあるのだなと

2020年、日本にオリンピックがやってくる。

今でさえ、都心の朝夕の通勤ラッシュはストレスフルな現状である。2020年のオリンピックに向けて日本が備えようとしているのがテレワークだ。

事務所に出社せず、自宅や、カフェで仕事をする。サラリーマンが出社しなくてもよくすることによって、通勤ラッシュを緩和して、オリンピック観覧を目指してやってきた外国人旅行者に少しでも楽をしてもらうという試み、なのだと僕は理解している。

弊社でも二年ほど前からこの準備に向けて、社員にはそれまでのデスクトップPCに替えてノートPCが貸与された。ただ、現状では「出社できないほどの混雑」ではないので、不公平感が出ないよう、週に何日かは在宅勤務OKという施策になっている。

僕は毎週週中の火曜と木曜が在宅勤務の日だ。

出社しなければできない仕事もあるので、どうしても仕事のスケジュールだてはこれまでよりも綿密になる。「あ、この書類出すの忘れてた」と、自宅で気付いても手の付けようがないからだ。

ほどなくして僕も、職場では提出期限のある書類手続きを進めて、自宅では集中が必要な資料作りなんかを主にやるよう、自分の中で仕事の種類を分けるようになった。

 

勤務開始も、昼休憩も、勤務終了もメール一本で済ませる。

時報告のようなものだ。

「これより勤務を開始します。」

「本日の勤務を終了します。」

時報告なので、返事はない。

 

毎日出社して、同僚とランチに行ったり、上司のところに駆け込んでああでもないこうでもないとやっている人からすると「それは孤独なのではないか」「ひとりきりでさぼってしまうことはないのか」と不安になるかもしれない。

でもまあ、そんなことはない。

どうにもこうにもアイデアが浮かばなくて「サボらなければ進めないとき」に、誰の目も気にせず堂々とサボれるのも在宅勤務のよいところであると思う。その反面、過集中、とでもいうのだろうか、こだわりがさく裂してPC画面の前から何時間も動けなくなることあるので、一仕事終えたあとにはへろへろだったりもする。

 

弊社の場合、在宅勤務が認められているのは、二年目以降の「自分で仕事ができる」レベルの社員だけだ。「新卒社員にはまず仕事のやり方を覚えてもらわなくてはならないから、先輩社員が近くにて、常にコミュニケーションが取れる状態のほうがいい」という考え方は至極まっとうであると思う。

 

僕の場合、在宅勤務では締め切りのある資料作りを中心に進める。

事業責任者会議にあげる我が部の資料だったり、外部の委員会に提出する集計資料だったりを、ひとりで家でちまちまと仕上げていくのだ。

本当に八時間みっちりかけてやり遂げるときもあるし、その八時間のうち半分は気分が乗らなくてだらだらしていることもある。

納期と質が認められれば、勤務態度はどうでもいい。けっしてはつらつとしたサラリーマンではない僕にとっては、向いた施策である。

 

今日は、四半期の人員数の増減資料を作っていた。

昨年度の期中に前任者の退職によって引き継いだのだが、その前任者も、その前の前任者も退職によって「前任者の退職によって」引き継がれた仕事であった。

 

少々事務仕事的な話になる。

得意な人は、「そんなのマクロ組んで一発じゃん」と思うだろう。

それが、前任者もその前の前任者もそれほどエクセルが得意ではなかったのだ。

そのうえ「この仕事すごく時間がかかるし全然数字が合わない」と歴任者全員が嘆くため、隣の課の「あたしエクセル得意よおばさん」が首を突っ込んできて、計算式をより複雑にしてしまったのだ。

 

そうして計算した資料を上の部門に提出するのだが、歴任者全員が、「どの数字が本当必要で、どういう計算でこの数字が出てきているのか」を理解していない状態だから、一度上にあげた資料にイチャモンがついても「エクセルの関数が勝手に集計しているのでわかりません」といった始末だったのだ。

 

千人に満たない会社で人員を数えるなんてそんな難しいことじゃない。

男女、年齢、給与、勤続年数、五年も人事をやっていればどこにもととなるデータが入っているかなんてすべてわかっている。

 

それを、わかっていない外部の人間がわざわざ乗り込んできて、変なシステムを組んでしまったから、どこでどう入り繰りされているかがわからなくなってしまったのだ。

 

歴任者が直属の上長である課長に「どうしても数字が合わないんです」と漏らすたびに「手で数えたほうが早いのでは?」と返されていた。

実際、僕もそう思う。こんなただただ複雑なだけの、関数だらけのエクセル表を使うくらいだったら。手で数えたほうが早いと思う。

 

マクロ化するにも、アクセスで元集計をやろうにも、これまでやってきた「カタチ」というものがある。一応上長に相談したが、「今回はとりあえず」ということで、隣の課の人間がうちの課の下手さを見兼ねて作ってくれた”業務効率改善案”で対応することとした。

 

わが社の定時は午後六時だ。

昼からずっと、あれを足したりこれを引いたりやっているのに、全然合わない。

合わないたびに、隣の課のエクセルバカ女の憎たらしい顔が浮かぶ。

在宅勤務で、一人で、PCに向かって「あの野郎」なんてぼやいているのだ。

精神衛生上よろしくなさすぎる。

 

結局、上の部門には「数字が合っていない状態」で資料を提出した。

差し戻しがあったらそのときに対応する。

 

それと同時に、自分が持てる技術を総動員して、アクセスを組んで、元資料を三つ入れたら結果までたどり着くマクロを組んだ。

 

他の資料作成の方法とも連動しているので、これで数字がずれることはない。

ずれた場合は、アラートが立つように仕込んである。

 

なんでもそうだが、餅は餅屋に任せるべきだ。

内情がわかっていない人間に付け焼刃で恰好だけの”業務効率改善”をされたところで、知らない人が作ったものは使えないのだ。

 

「IFでエラーだったら〇〇を見て、そこもエラーだったら〇〇を見て、〇〇だったらカウントをして」ってバカか。

過去に退職した人間のデータ5万件入っているんだぞ。エクセルで処理するには多すぎる。

だったら最初から、エラーになる人間は削ってしまえばいいのだ。

数えるのが正社員と契約社員と嘱託社員と出向社員と出向受け社員だけならそれ以外のゴミデータもアクセスで消せる。

在籍してる人だけを残すなら退職日が当月末の人と、「0」の人だけを残す。

休職中の社員は部署コードで外す。

これだけで5万が1000になる。

「男女」はコードで「1」と「2」に分かれてるからわざわざそれを「男」「女」に読み替える必要もない。

生年月日が8桁で出てくるのならそれをDATEDIFで直さなくてもアクセス内で補完できる。

勤続年数もわざわざ計算しなくても、人事システムが持ってる。

給与データも、なんで給与専用のでかいCSVからたった一行引っ張てくるためにVLOOKUP使ってるのかわからないのだが、こういう毎月更新されるものはリンク貼ってアクセス内で自動更新させればいいんだ。

 

「もとのデータはでかいほうがあとあと戻れるからいい」というのもわかる。

しかし、ビッグデータってそういう意味

一見意味不明に見える大量のデータを専門家が大別化して選別することで意味が見いだされるわけで、集計の目的が決まっている場合、ゴミデータは即座にゴミデータとして捨てたほうが、あとあと楽になるにきまってるだろうが。

 

そんなこともわからないから、一つの関数を動かすたびにエクセルが止まるような、みみっちい関数だらけのエクセル表が出来上がるんだよ。

予見しようよ。何件扱ったらうちの会社で貸与されてるPCのエクセルが音を上げるかさ。

 

そもそも、自分がエクセル集計苦手だからって他課の人間に頼んじゃだめだよ。

全然使えてないのに今でさえ「やってやった感」出してくんじゃん。

うちの課の人間はもうこのことには一切触れないし、僕がアクセスとマクロ組みなおして、5時間かかるところ20分で処理できるようにしたとしても、当人には言わないんだろうけどね。

 

通勤のない、挨拶のない、会話のない、ストレスフルな在宅勤務だったはずなのに、妙に滾ってしまって、人が作ったエクセル集計表をアクセスマクロに組みなおしていたら二時間経ってしまっていた。

 

あと二項目ほどで網羅できるところだったのだが、まったくのサービス残業だし、こういうことはぶつぶつ苛立ちながらやっているところを見てもらわないと評価に繋がらないかもしれないから、残りの分は来週に取っておくことにした。

 

会社貸与のPCをシャットダウンしてコーヒーを飲んでいたら、提出部門の課長から「月締めの集計と四半期の集計で差異がるのですが、ご確認いただけますか?」とメールが飛んできたが、見なかったことにした。

 

とりあえずものは出したから、締め切りは守ったことにしてください。